気分障害の当事者活動と「双極性U型」について。「うつ病」を気分障害として捉えることの重要性について。(個人的意見)

 

 

・私のささやかな体験では、気分障害の当事者活動をする仲間には、本人は「自分はうつ病」だと思っていても実は双極性U型の躁うつ病であるケースが多く、本人も周囲の人もそれを認識できないまま放置して、いつしか問題が発生または深刻化して、こじれてしまうようです。個人のプライバシーに触れるので此処には記述しませんが、マスコミにまで登場したある会が分裂をしていった背景にはこの問題があったと、私は考えます。

 ここでは気分障害の当事者活動に関わっている仲間に「双極性U型」について認識を持っていただき、自分の療養方針について検討していただきたいという問題意識です。あわせて、単純に流行の「うつ病」というのではなく、やはり本来の疾病分類である「気分障害」として把握することの重要性について、提起したいと考えます。

 

・「双極性U型」 というのは、「躁」と「うつ」がはっきりと現れる通常の躁うつ病(双極性T型)とは異なり、「軽い躁」と通常の「うつ」が現れるタイプの双極性障害(躁うつ病) を言います。この「軽い躁状態」は軽いため、本人は調子が良いぐらいの認識しかなく、周囲の人もほとんど判りません。日常生活に支障は無いのです。(もともと患者は「躁状態」に病気としての認識がありません。) ですから、当人は躁状態の後の「うつ状態」の際に医療機関を受診するのですが、診察室では「うつ」の苦しさしか訴えません。そのため、精神科医でも鑑別診断・発見が難しく、多くの場合が「うつ病」と診断されて治療されているようです。

 

診断基準(DSM−W)から「軽躁病エピソード」を確認しておきましょう。 

A 持続的に高揚した、開放的な、または易怒的な気分が、少なくとも4日間続くはっきりとした期間があり、それは抑うつのない通常の気分とは明らかに異なっている。

B 気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が持続しており(気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる 程度に存在している。

1.       自尊心の肥大、または誇大。

2.       睡眠欲求の減少(例えば、3時間眠っただけでよく休めたと感じる)。

3.       普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする心迫。

4.       観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験。

5.       注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でない関係の外的刺激に伝導される)。

6.       目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加または精神運動性の焦燥。

7 まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例えば、制御のきかない買い漁り、性的無分別、ばかげた商売への投資などに専念すること)。

C.エピソードには、症状のないときにはその人物に特徴的でない明確な機能変化が随伴する。

D.気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。

E.エピソードは、社会的または職業的機能に著しい障害を起こすほど、または入院を必要とするほど重篤でなく、精神病性の特徴は存在しない。

F.症状は物質(例:乱用薬物、投薬、または他の治療)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない。

(身体的な治療、例えば投薬、電気けいれん療法、光療法などによって明らかに引き起こされた軽躁病様のエピソードは双極U型障害の診断とはしない。)

 

(注:Bの6の部分の太字は私の独断です。)

 

ここで注意したいのは、Aの項目で「少なくとも4日間続くはっきりとした期間」として、少ない方の期間を示してはいるが、多い方の期間を示してはいないことです。これを読み取るならば、「4日以上 〜 数週間あるいは数ヶ月あるいは数年」となるのかなと思います。

この軽い躁状態が現れると、続いて「うつ状態」が現れることとなります。

 

診断基準では、「296.89 双極U型障害(軽躁病エピソードを伴う反復性大うつ病エピソード)」

A 1回またはそれ以上の大うつ病エピソードの存在(または既往歴)

B 少なくとも1回の軽躁病エピソードの存在(または既往歴)

C 躁病エピソードまたは混合性エピソードが存在したことがない。

D 基準AとBの気分症状は失調感情障害ではうまく説明されないし、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または特定不能の精神病性障害に重畳するものではない。

E その症状は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

 

ここでは、1回でも躁病エピソードまたは軽躁病エピソードを経験していたら「双極性障害」になることに注意してください。

 

・双極性障害の患者が漫然と「抗うつ薬」の使用を続けることには問題がある。

 (一般書で「躁うつ病」について書かれた書籍はほとんど見かけません。この状態は改善していただきたいと思います。)

「「うつ」と「躁」の教科書」  ブライアン・P.クイン 著  紀伊國屋書店  から。

この本のP280 「双極性U型の患者に抗うつ薬のみによる治療が施されることが多いが、これは適切な治療ではない。抗うつ薬への耐性が生まれやすく、また、軽躁病を導いて、さらにはより治療の難しい急速交代型の双極性障害に至ることが多い。」

また、大野裕先生の「監訳者まえがき」でも、「現在は、双極性障害のうつ症状にも、まずは気分安定薬が使うのがよいとされている。うつだからといって、双極性障害の人に抗うつ薬を使うと、躁状態が引き起こされて本格的な双極性障害が表に現れたり、うつの状態と躁の状態が頻繁に繰り返される「急速交代型」と呼ばれる状態が現れたりして、治療がますます困難になってくることがあるので注意しなくてはならない。抗うつ薬は、医師の指導のもとに服用すれば基本的には安全であるが、このような可能性については治療をする側だけでなく治療を受ける側も知っておくと役に立つものである。」

(気分障害の中の分類についてはこのHPの「診断基準」の項目を参照してください。)

 

「うつ状態(うつ病)」は単極性の場合もあれば、双極性の場合もあります。「うつ」=「うつ病」と単純に考えないで、まずは「気分障害」という病気として認識して把握することが重要だと思います。(ただ、「うつ状態」そのものは様々な病気・問題を背景に出現するものです。)双極性障害全体の数は、「単極性うつ病」に匹敵するという説もあります。また、自殺の危険性も同じように非常に高いのです。

さきほどの「「うつ」と「躁」の教科書」 のP280の文章の前の部分にこうあります。

「大うつ病エピソードの間に軽躁病エピソードをもつパターンを双極U型という。双極性障害の約60%をこのタイプが占める。患者はうつ病エピソードのときにしか診察を求めないため、単極性と誤診されることが多い。軽躁の特徴については、慎重に病歴を調べ、家族の話も聞かないと、見逃しやすい。患者にとっては軽躁の状態は「正常」な気分であるため、自分からは言わないものである。・・・家族に患者の軽躁病エピソードについて尋ねない場合、双極性が見逃される危険性は2倍になるという。」

 

アメリカにおいてもこの点は強調しておかなければ見逃されてしまう可能性があるのでしょうが、日本ではどうなのでしょうか。

2002年10月の「精神科治療学」(星和書店)「気分障害の治療ガイドライン」によると、双極性U型の薬物治療についてはその研究がないとあります。そのため、双極性障害の部分を見ると、

P107 「双極性障害の半数以上はうつ病相で初発する。・・・単極性うつ病で入院した患者の退院後15年間の追跡調査結果では、15年後には27%の患者は双極性障害に、うち19%は双極T型に極性変化が見られた。単極性うつ病患者の約3分の1は双極性障害に変わるため、予防療法においても気分安定薬の併用が好ましいと考えられる。・・・の調査でも、気分安定薬が処方されていたのは50%にすぎなかったと述べている。」

P108 「双極性うつ病の治療の問題点  双極性うつ病の薬物療法で使用される抗うつ薬によって、1)躁状態の誘発、2)うつ病相の頻発化が問題となる。

1)躁状態の誘発   現在使用可能な抗うつ薬のほとんどが躁状態を誘発する可能性がある。・・・したがって双極性うつ病に抗うつ薬を用いる場合には、気分安定薬を併用するのが良い。

2) うつ病相の頻発化  抗うつ薬使用可能な時期以降、頻発型双極性障害が増加しているところから、抗うつ薬による病相の頻発化が危惧されているが、さらに詳しい臨床研究が必要であろう。」

HP作成者注:上記で「双極性うつ病」というのは「双極性障害のうつ病相の時期」を指します。そのような病気はありません。)

 

以上のことから、この時点(2002年)では双極性障害(躁うつ病)の薬物治療には「気分安定薬」を基本にすることが確立しておらず、双極性障害の「うつ病相」の治療に抗うつ薬を使用することには疑問があるとの認識を示しながら、今後の研究成果を待ちたいとしています。やはり日本は少し?遅れていたようです

 

ただし、双極性障害のうつ病相においても、自殺の可能性が高い、日常生活のQOLが低い、その他の理由で必要な場合には抗うつ薬の使用が考えられているようです。エネルギーがある程度回復するまでは「併用する」という考えなのでしょう。しかし、漫然と使用していると、いわゆる「躁転」の恐れ、「急速交代」化、再発率の増大など長期的な結果として悪化してしまう可能性があるというのが現在の認識なのです。

 

・もし、あなたが「双極性U型」だったら。回復をテーマとした場合は「単極性うつ病」よりも時間がかかると思います。ただ、自分の病気について知らなかった場合よりもずっと良いと思います。これまでの病歴、人生の謎だった部分、あるいは忘れようとしてきた不快だった記憶の説明ができるかもしれません。

もしあなたが当事者活動に関わっている人だったら、あなたの躁的な部分が仲間やミーティングの参加者を傷つけてしまう可能性について「気付き」を得たことになります。そして、実際に注意してください。また、自分の「躁」について検討することができれば、仲間の「躁」状態の不適切な認知の修正に役立つかもしれません。

 自分の体験を有効活用できる「かもしれない」ことを忘れないでください。無理しないように。

 

・それでは、「単極性」と「双極性」をどうやって鑑別診断するのか・・・肝心のその点については、「「うつ」と「躁」の教科書」の中に書かれていますので、読んでみてください。私にはこの部分の信頼性がどうなのか分かりません。著作権の問題があるのでそこまで書けません。

 

・「軽い躁状態」の見本として例示したいHPがあったのですが、今は閉鎖されてしまい、挨拶文だけとなっています。

 

最後になりましたが、抗うつ薬の種類で「SSRI」(パキシル、ルボックスなど)については上記のような危険性は少ないと(三環系抗

うつ薬よりは少ない)・・・高名な先生が外国の研究を紹介しているのを読んだことがあります。しかし、くれぐれも慎重に治療を進めていただきたいと思います。

 

追記(2006.04.01)

「双極性障害の治療スタンダード」(星和書店:2002.11.18)から

p74 「双極性障害患者での抗うつ薬の使用は、躁転の危険性や、急速交代型や混合状態の出現と関連していることが指摘されている。しかし気分安定薬を適切に使用しても、うつ状態の遷延してしまう一部の双極性障害患者に対しては、抗うつ薬を併用する必要がしばしば認められる。その際には抗うつ薬による治療は、最小限の必要量で、最短期間行う。躁転の危険性が大きいため抗うつ薬単独での治療は行わない。」

 

 

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